軽いギター用スピーカーキャビネットを作って欲しい。今回頂いた依頼は僕が中学生の頃に行きつけだった楽器屋さんで親切にしてくれていた大先輩からでした。
「軽く」、ある意味僕にとっても大きな課題であるご要望を頂いたのは事実でした。
先輩の事務所にお邪魔しての打合せで、「このヘッドのキャビにしたい」と言われて手渡されたアンプヘッドが軽い!見た目はブギーの19インチシャーシ並みの大きさなのに、重さはそれの3分に1?と感じるぐらい軽い!
「このヘッドのキャビかぁ〜」
この軽さイメージでスピーカーキャビはなかなかの難題だなぁ〜とヘッドの寸法を採寸して帰路につく。戻って早速CADで設計開始。
見せて頂いたヘッドのケースは板厚18ミリのタモ系集積材で作ってあったので、まずは18ミリのラワン合板で設計して試作。ヴァージョンは1.1.1
ちなみにバージョンの桁数の解説を先にさせて頂くと、最初の数字が外形寸法や外装構造の板厚などの設計、2番目の数字が内部構造の設計、3番目の数字がポート類の設計を意味する数字。
1.1.1の試作品はとにかく重かった…
という事でver2.1.1。これは15ミリのラワン合板で設計・試作をし直したのだが、それでも重く感じる…
そしてver3.1.1はラワン合板12ミリの基本構造。まあまあ軽いが、あのヘッドを持ちあげた時の軽さの衝撃にはほど遠い…
ならばとラワン9ミリの板でver4.1.1。でもさすがに9ミリのエンクロージャーでは音がボヤけてしまう。
ならばヴァージョン3を基盤に材料の見直しという事で針葉樹合板を使ってバージョン3.2.1。針葉樹合板を選んだ理由は割と単純でアメリカの製品は米松合板で作られたものが多い。そしてそれらの製品は一様に見た目とは裏腹に軽い。当方音響稼業でも20年前ぐらいはまだ「JBL4560」は普通に現場で使っていた。その「60」は見た目の図体の大きさとは裏腹に「軽い」のだ。そしてその米松合板エンクロージャーは当時のアメリカンサウンドの要だったのも事実だと思う。
こちらの話に戻るが、ver3.2.1はver3.1.1に比べてかなり軽くなった。それでも12ミリある板厚はかなりのレベルでスピーカーのエネルギーを支えてくれる。ならば構造を工夫する事で締りのある音に持っていける予感を感じて製作したver3.3.1は内部構造の工夫が締りある音をもたらしてくれた。基本的な構造が決まってきたので低音再生の質を求めてver3.4.1、さらにポートの設計を見直してver3.4.2。
内部構造を一部変更して作ったテスト器ver3.5.1がこれ。
木部を整えユニットを組み込んで、CD音源でのテスト。ユニットがギターアンプ用の物にも関わらず、バスドラ音の空気の圧力が感じられる低音を再生。
そして発注してくださった先輩の練習にお邪魔してバンドリハーサルでの実践テスト。先輩はスタジオ内の色々な場所で音を聴いて下さり、僕に一言「どこで聞いてもいい感じに聞こえる!気に入った!」と高評価をくださいました。ありがとうございます。設計・試作に長い時間を頂けたからこそです。
持ち帰り9弦ギターで、改めてチェック。低音再生能力が音楽的になかなか美味しい所にきている事を改めて確認。
実戦テストバージョンは、少し内部構造に手を入れて3.6.1として大阪のライブでテスト。
大阪ライブ後に、ご感想をうかがい納品バージョンの製作に進みます。